鼻毛処理器具はオヤジの象徴たる印象が強く、これを使うか使わないかはルビコンの両岸であった。
こういうものが世の中に存在するのだと知ったとき(確かそれは乾電池で動くしろものだった)、一介の若者であった私は軽いショックを受けると同時に嘲笑したものであった。
20代までは気にしたこともなかった鼻毛だが、30代になり、たまにはみ出し者が出てくるようになり、35を過ぎたあたりからは成育が加速、定期的に収穫する必要がでてきた。それでも私は認めようとはしなかった。
鼻毛の中に一本、白いものを見つけたとき、私ははじめて認めた。認める勇気を持とうと思った。
鼻毛バリカンを使う自分の姿を。
でも悲哀感のある電動は抵抗があった。
ういーん。しょりしょり。
こういうものこそ、ちいさくて、手になじむ、熟練の逸品はないかと頭の片隅で待機モードしていたところ、国内の町工場が製造しているローター式手動鼻毛バリカンを見つけた。
手のひらに入るほどの大きさで、ローター刃の美しさにひかれた。鼻孔の中を庭園のごとく刈り込んでくれるので、しばらくは伸びてこない。
今では、早く鼻毛が伸びないかと心待ちである。
一方、はさみの方はティムコ社製のシザー。フライフィッシングの毛鉤をつくるための高級シザーで、数ミリの繊細なマテリアルを扱うだけあって、先端に向かう微妙なカーブと、ミクロンの繊維を逃さない噛み合わせ、ステンレスの硬質な素材感が妙境である。愛用していたフライ用シザーが使いすぎで切れなくなったので、思い切ってこれを入手したが、けっして鼻毛用というわけではない。
ただ、これさえあれば、鼻毛をアーティスティックにデザインカットすることだって自在。の、はず。