カイゼン生活

日常的非常事態サバイバンライフ

折りたたんだ姿が世界一美しい自転車。(ブロンプトン Brompton)

折りたたんだ状態の居ずまいが美しい

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居間に、いくつも並べたくなる。
といってもインテリアの話ではない。自転車である。
折りたたみなので場所をとらないから、というだけで居間に置きたくなるものでもない。リビングに据えたくなるのは、道具としての居ずまいが美しいからである。
居ずまいとはなにか。機能美であり、日本の伝統技術にも息づいてきた用の美か。
かといってこの自転車はけっして美しいパーツを使っていない。むしろ逆で、ひとつひとつのパーツを見ると、あきれるほどに野暮ったい。
使用して5ヶ月。
このブロンプトンという折りたたみ自転車は、道具について、いつもと違う見方を与えてくれた。


純正フロントバッグをつけたままでも、このとおり。
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居間の片隅に置いてもまったく圧迫感がない。
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コールマンのキャンプチェアのかたわらに置くと、あまりに収まりがよすぎてまるで車椅子のようである。
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ハイエース(ナロー)車内でも自転車を積んでいることを忘れる。
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収納作業の小さなイラっが億劫さを呼ぶ。

折りたたみ自転車が好きで、長くパナソニック社製のトレンクル6500改(18段変速)を愛用してきた。
ハイエースや電車を使っての輪行で威力を発揮したトレンクルには、走行性能を含め、これまであまり不満はなかったのだが、展開と折りたたみ時にストレスがあるのも事実だった。
一回の輪行で、展開し、数十キロ走り、折りたたむという従来のスタイルだと、ストレスは一日一、二回で済んだ。
しかしここ数年で輪行スタイルが変化し、一回あたり数キロから十キロ程度の短距離を一日何回もかさねることが多くなった。展開する、折りたたむ、これをくり返すのが面倒で、ついつい出しそびれたり。

トレンクルの展開・収納のどこに問題があるのかを書いてみれば、たいしたことはない。
メインフレームの蝶番部分のクイックリリースシステムの出来が悪く、がちゃがちゃやらないと折りたためないとか、サドルピラーが伸縮しにくく、ごりごりやるとスリーブがはずれたりしてイラつくので少し油を差したら、今度は手が真っ黒に。とか、折りたたんだときにバンドで結束しないといけないとか、展開時にハンドルの蝶番部にいちいち付属のマジックテープバンドで固定しないと走行中にハンドルがぽろっとはずれそうになるとか、まあそんなものだ。
気合を入れて、えいやッとやってしまえば、作業自体は1、2分のことだろう。
しかし人間、不思議だ。この1、2分のあいだの、小さなイラっが、出し入れをすごく億劫にさせる。
1日に3回も4回もこの作業をやるのかと思うと、もう面倒くさいからいいや、という気になる。


ほんらい苦痛の作業だったものを逆に快楽に変えることができるのが、良い道具の真骨頂である。
たとえば掃除機。マキタの業務用コードレス機を使いはじめてから、一時間に一度の掃除機がけは息抜きの域を越えて快楽でさえある。世はお掃除ロボ全盛でもそんなことどこ吹く風、こんな快楽を手放す気はない。

地味な細部を、ひたすらリファインする。

走行性能やデザインばかりに目がいきがちなフォールディングバイクだが、展開、収納といった地味な部分をしっかり作り込んだものはないものか。展開・収納することが快楽になるような機構はないものか。
そんな視点で探していると、当然の帰着としてブロンプトンに行き着いた。
もう今さら何かを語る必要などない定番中の定番車である。
芸術的な小径車を生みだし、その世界での第一人者である英国のモールトン博士が、なぜ折りたたみ自転車を作らないのかと問われ、「ブロンプトンがあるじゃないか」と答えたとか。
30年にわたって同じ自転車を作りつづけているところにも惹かれた。作りつづけているというより、この会社、ほとんどこの一車種しか作っていないといっても過言ではない。
それなのに毎年、モデルチェンジする。モデルチェンジといっても、ペダルの幅を7mm狭くしたとか、ライトステーをワイヤータイプから金属板タイプに変えたとか、そんな小さなリファインをひたすらくり返し、手作業で作られてきた。
そんなブロンプトンも一時は海外工場で大量生産をはかった時期もあったようだが、現在はイギリス本国での工場での手作業にもどっている。
ブロンプトン。こうなると存在自体が哲学である。

展開と収納作業に、快楽の光。

ブロンプトンは、展開と収納時の、ひとつひとつの動作がかちっ、かちっと進むのが魅力だ。
引っかかったワイヤーをイラつきながら直したり、すっぽ抜けたスリーブをはめ直したり、うまく嵌合しないクイックリリースをがちゃがちゃやったりとか、そんな余計な動作が入らない。ものごとが計算されたとおりに確実に進む。だから慣れれば慣れるほど動きが洗練されていく。こうなってくると、ほんらいは煩雑な作業に快楽の光が見えてくる。


その秘密は細部のリファインにあると思う。基本設計を変えず、ひたすらリファインをくり返す。


地味なことだが、真骨頂はワイヤーの取りまわしに現れている。
折りたたみ時にもっとも無理がくるのがワイヤーであることは間違いない。通常はワイヤーが鋭角に折れ曲がらないように長さに余裕をもたせる。この余計な長さがからまりとか引っかかりの原因になる。しかしブロンプトンのワイヤーは取り回し位置の妙で、ぎりぎりぴったり。

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この微妙なワイヤーのカーブ。絶妙。(ハンドル部のワイヤーの方は樹脂製のガイドが破損しているため、ちょっとバラけている)
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ワイヤーがばらけないようフレームに直付けされた金属製のガイドが見える。
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リヤの内装式ギヤ変速のために小さなチェーンを使うなど、感心を通り越して、感嘆の域である。ただ、この小さなチェーンは雨天走行のあとは注油をしないといけないのと、転倒時にダメージを受けやすい欠点もある。
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このチェーンはワイヤーにつながるが、その連結部分は鋭角的に角度を変える必要があるため、チェーンステー上武にある黒い部品を介する。
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次にフレームやハンドルの折りたたみ部を固定するクランプ。
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見た目は樹脂製のもっそりしたクランプ。日本だったらカッコよくクリックリリース式にしてしまうところだろう。
あまりのダサさに、見た瞬間、真っ先にカスタムパーツに交換してやろうと思ったのも事実である。
ところが使っているうちに、考えが変わっていく。このもっさりした樹脂パーツ、何とも手にやさしい。しかもくるくる回してネジの締め付けで固定するという原始的なこの構造が、かえって便利に思うようになった。
何もクイックリリース化する必要はない。構造は複雑になるし、クイックといいつつ、なんだかんだ操作が煩雑で、ぜんぜんクイックじゃないものがほとんど。トレンクルのフレーム部のクイックシステムは、思うように動作せず、がちゃがちゃやっているうちに殺意がふつふつと・・。ハンドル部のクイックは、クイックだけでは固定力に問題があることがメーカーでも分かっているらしく、マジックテープでクイックレバーを固定する構造になっている。これが面倒くさい。それじゃぜんぜんクイックじゃないじゃないか!
というわけで、ブロンプトンのくるくるヒンジは力も入らないし、調整の妙も必要ないし、ただくるくるまわすだけ。シンプル! しかもけっきょく速くて確実。なんか目から鱗だった。


次にシートポストを固定するクイックレバー。
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ここはさすがにクイック式であるが、正直、これも一見したときに真っ先に交換してやろうと思った野暮ったい樹脂製。
実際にブロンプトンオーナーでも、このパーツをカッコいいアルミ製に交換する人は多い。
しかし。
使いはじめてしばらくすると、交換するのはやめようと思った。手にやさしいのである。
クイックレバーは締めたときに手にレバーのあとが付くぐらいの強さで締め込むのがいいと教わったことがあるが、アルミ製のシャープにエッジの立ったイケメンクイックレバーだと、はっきり言って手が痛い。もっと言えば婦女子が使えない。わが家ではサドルの上げ下げはいつも私の役割だった。こうなると他のバイクもブロンプトンのクイックレバーに変えてやろうかと逆に思ってしまった。


ペダルも変えてやろうと思った。しかしやめた。展開・収納にちょっとコツがいるし、あまりスマートじゃないけど、これ以上のカスタムパーツが今のところ見つからない。

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折りたたんだ状態が居心地いい。

ブロンプトンの展開・収納作業において、徹底した使いやすさの追求の結果がダサい樹脂パーツに込められた哲学であることに気づきはじめたわけだが、これは英国人の気質にも関係していそうだ。日本人なら、もっと使いやすくカッコいいパーツが作れそうな気がするのだが、残念ながら大手のパナソニックでさえ名車トレンクルのリファインは妙だ。カーボンフォーク採用とか、そんなことより、やることあるんじゃないのーと思っていたら、2014年の最新型では、ついにメインフレームのクイックレバーにも、なんか固定ベルトみたいなものがついている。手間が増えているじゃんかー。


ブロンプトンでは、展開・収納作業自体に喜びが見いだせるようになってきたのだが、それを支えるもう一つの特徴に「カチっと落ち着く」という要素がある。

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フロントフォークの先端部近くにある黒い樹脂パーツ。これは折りたたんだときに隣り合わせになるチェーンステーをしっかりくわえるツメ。チェーンステーが傷つかないようにとりあえずビニールテープでぐるぐる巻きにしているので、さらにダサさが強調されているが、このパーツが一度チェーンステーをくわえこむと、前輪部の自重でおのずと固定される構造になっている。かちっと二つ折りの状態で落ち着く。

これは二つ折りにしたハンドルステー部にもいえる。
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ハンドルステー上部についたボール状のパーツが、ハンドル下部にある金属と樹脂を組み合わせたパーツによって、しっかりとくわえこまれている。これで、折りたたんだときに、かちっと止まる。


あまりにスムーズなため意識されない部分としてチェーン・テンショナーがある。BD-1ブロンプトンのようにチェーンステーごと後輪を内側にしまいこむ構造の場合、展開時と収納時とでドライブ側とドリブン側のスプロケットの軸距が変わってしまう。結果、BD-1などでは収納時にチェーンがたるむ。(新型ではチェーンのたるみを防ぐステーが追加装備された)
一方、ブロンプトンはチェーンのたるみを意識することはないだろう。見た目は悪いが樹脂製のチェーンテンショナー(下写真の後輪部の黒い部品)がしっかり仕事をしているから。
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折りたたみおよび展開に必要な時間は30秒ほどだろうか。(公式動画では約20秒)


なんと6.65秒という早業も。

BROMPTON早たたみ



こういった動作がスムーズにいくだけでなく、ブロンプトンが感心なのは、この作業のあとに、すぐに動きだせることである。
他の折りたたみ自転車は輪行袋に入れたり、折りたたみ状態が崩れないようバンド類で結束する必要がある。
その秘密は、シートポストにある。
シートポストを下げる(収納状態)にすると、サドルに手をかけて持ち上げても収納状態が崩れない。
サドルを上げて同じように持ち上げると、バラっと展開する。
購入当初は、なぜそんなにうまいこといくのか分からず、ブロンプトンの各部をあちこち覗きこんだものだ。
答えはここ!
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右の銀色の棒がシートポスト。縮めた状態だが、サドルを手に持ち上げると、下側の黒い円盤状のゴム部品がシートポストにぶつかり左側の後輪が重力で下がる(展開する)のを防ぐストッパーの役割を果たす。
後輪が展開しなければ、先に見たフロントフォーク側の樹脂パーツがチェーンステーをしっかりくわえ込んでいるから、結果として全体が折りたたんだ状態を堅持する。
まるで頓智(とんち)のような構造美である。
さらに収納状態では3輪(荷台付きモデルは4輪)のサブホイールが地面に接地しているので、ころころと転がして移動することができる。だから通常の輪行バッグのように、バラけを抑止させたり、担いだりするための機能は不要になり、ブロンプトン輪行袋は上からしゅぱっとかぶせ、サドルだけをぴょこっと出させるだけ。階段などはサドルを持ち手にする。

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サドルの下部をよく見てほしい。指の形に樹脂のでこぼこが。
手に持つとこれがやさしい。
サドルだけはブルックスの革製のカッコいいやつに変えたかったのだけれども、これも当面、あきらめた。この持ち手がじつに心にくいし。

トレンクルとの比較

コインロッカーに入ることが売りのトレンクルと比較してみると、ブロンプトンの収まりのよさが実感できる。
トレンクルは確かに小さいのだが、あちこちにエッジが立ち、まとまりがわるく、どこか収まりが悪い。
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折りたたみ時の寸法の違いは以下のようにほぼ同格ながら、ブロンプトンの薄さがきわだつ。

ブロンプトン
12kg(S6R)
W59cm×H58cm×D27cm


トレンクル
6.5kg
W58cm×H55cm×D35cm

トレンクルは多段化の改造を行ったせいもあるが、寸法外のワイヤーの飛び出しなどが目立つ。
内積載、電車移動、室内保管・・どの場合でも快適性にいちばん違いを与えるのは、じつは薄さ(幅)である。
それはブロンプトンを使ってみて、特に実感したことでもある。

展開・収納の快適さが生み出すオスワリスタイル。

ブロンプトンは乗り降りのしやすい自転車である。町で野で、気になったところで、ちょいと自転車をとめる。
そんなとき多用するのがブロンプトンならではのオスワリスタイル。
後輪だけ折りたたみ、ほぼワンアクションでこのスタイルで自立する。

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チェーンステー基部に二つ、リヤフェンダー上に一つ(荷台付きモデルは二つ)、合計3個のサブホイールが折りたたみ時は後輪に変わって地面に接地し、車体を支える。

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傾斜した場所などは自立は難しいが、そこそこの安定感はある。サブホイールが四輪の荷台付きモデルはもっと安定するだろう。


さて、長々と書いてきたわりには、一度もブロンプトンの自転車としての姿・性能に触れていなかった。これについてはまた次の機会に。


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